第134回 平成23年10月20日 
円居 総一 氏

日時:平成23年10月20日(木) 午後3時~5時
場所:衆議院第一議員会館 大会議室 (地下1階)
演題:
原発に頼らなくても日本は成長できる -原発からの脱却こそが新たな成長への道-

円居 総一 氏
えんきょ    そういち
講師   円居 総一 氏
日本大学 国際関係学部 大学院 教授、 日本経済センター特別会員、
公益財団法人 国際通貨研究所客員研究員


内容

底なしの原発事故の深刻さに直面して、原発の安全神話は完全に崩壊した。だが原発の存廃をどうするのかという社会選択の問題となると安全性論議だけでは片付かないのが現実だ。原発の実態とその代替可能性を含めた客観的検証に立って脱原発への社会選択の道筋を描いて行く必要がある。
原発はほんとうに安価でCO2削減効果の高い電力なのか?原発は公平な比較をすると水力や火力より発電単価が高く、発電システムの経済性も火力に劣後する。政府の支援金を加えれば更に発電単価は跳ね上がる。今回の事故の賠償負担まで入れれば際立った発電コストになる。CO2削減効果も意外にない。日本の熱効率技術を供与していく方が地球的に遥かに大きい。
だが、それでも電力の3割弱の原発を代替する電源がなければ、安全性をとるか、経済衰退に甘んじるかの二者択一になってしまう。その下では、再生可能エネルギーの普及を促し、その普及までは原発をベース電力として水力、火力、再生可能エネルギーのベスト・ミックスを図って行くのが1つの現実解となってしまう。
だがこの厳しい選択を迫られた時に世界では天然ガスの採掘革命が生じ、安全性と成長両立への道が開けた。成長に繋がるような原発の代替の条件は、採算性、経済性に優れ、十分な供給力があって熱源となる資源の安定的確保が見込まれること、の4つである。火力は、すでに3つの条件を満たしていたが、資源の安定確保に懸念があった。それが天然ガスの採掘革命で一挙に懸念は消失した。
火力の代替能力は高く、電力10社分でも、その稼働率を例えば86%強に上げれば通常水力と併せ原子力抜きでもピーク時水準を十分に賄って行ける。またその引き上げで発電コストはkWh当り1円50銭以上低下し、全体では1兆円前後の経済負担が軽減される計算にもなる。原発保持の政府負担も停止後は冷却と最終処分の管理費用負担だけになり、併せ年間1兆5千億円近い社会経済的負担の削減となる。
火力は、発電調整が可能で小型化や分散化も可能という経済特性をも有する。これら特性は、効率生産、効率消費に向けた電力供給体制の自由化やIT化にもマッチし、電力料金の低下と新たな市場の台頭を促す他、再生可能エネルギーの普及をも容易にする。
火力設備の十分な基盤と天然ガス革命がもたらした二者択一でない脱原発への道、それは原子力を火力で代替し、火力を最終的に再生可能エネルギーで代替する連続性を持ったエネルギー転換だ。原発は安全性の問題はいうまでもなく、社会経済システムとしての意義もすでに失ってきている。
火力の活用と電力供給のオールドシステムからの脱皮を軸に脱原発を進めることが、経済の負担を減じ新たな成長へと繋ぐ道となる。連続性を持ったエネルギー転換で元気の出る脱原発を進め、経済社会の再生と発展を急がなければならない。


講師自己紹介

1948年生 ロンドン大学政治経済学院(LSE)博士課程修了、博士(経済)取得。
東京銀行ロンドン支店企画調査課長、本店調査部次長(兼業務戦略頭取補佐)、ニューヨーク支店次長などを経て東京三菱銀行米州本部上級副頭取兼主席エコノミスト。1997年より日本大学国際関係学部/大学院教授。日本経済研究センター特別会員。経済企画庁、通産省など諸諮問委員会委員、経済同友会米国委員会主査、経団連景気動向専門部会委員、富士通総研経済研究所研究顧問、日本EU学会理事等を歴任。日経新聞経済教室や日経ビジネス、エコノミスト、ジャパン・タイムズ、ヘラルド・トリビューンなど多数の寄稿と学術論文の他、近著に『原発に頼らなくても日本は成長できる』などがある。