第130回 平成23年7月21日 
後藤 政志 氏

日時:平成23年7月21日(木) 午後3時~5時
場所:衆議院第一議員会館 大会議室(地下1階)
演題:原発をどうすべきか‐設計者の立場から‐
ごとう   まさし
講師 後藤 政志 氏 博士(工学)
元 原発設計技術者
芝浦工業大学非常勤講師
http://gotomasashi.blogspot.com/


内 容

[Ⅰ]原子力発電プラントとは
沸騰水型と加圧水型の違いを踏まえて、核反応を【止める】こと、燃料や原子炉および原子炉格納容器(以下格納容器という)を【冷やす】こと、および放射性物質の【閉じ込める】仕組みを解説する。

[Ⅱ]福島原発事故の概要と事故原因について
福島第一原発で、地震により起きたことおよび津波により生じたことを説明し、どのようにして原子炉が炉心溶融(メルトダウン)から水素爆発、原子炉損傷、格納容器の損傷が起き、大量の放射性物質を撒き散らすことになったか、その経緯と事故原因の推定を含めて解説する。またなぜ格納容器の圧力が異常に上昇したのか、そしてなぜ格納容器ベント(ガス抜き)をせざるを得なかったのか、格納容器ベントにより大量の放射性物質を撒き散らしたことの意味を設計技術者の立場から詳しく説明する。

[Ⅲ]原発の技術的な特徴と安全性
原子力の技術的な特徴は、他のエネルギーシステムとは比べものにならないほど膨大なエネルギーを非常に短時間で発生させることと、それを様々な安全系のシステムを何重にも組み合わせて(多層防護または多重防護という)制御することである。しかしながら、どんなに精緻につくった機械類も、設計想定を超える地震や津波、暴風、落雷などの外的な影響で多重故障を起こすことがあり、古くなると劣化し故障する。製造上の欠陥や不適切な操作により壊れることもある。それまで顕在化していなかった機器の故障や人間のミスが重なり、事故はより深刻な状態に陥っていく。その事故の連鎖をどこかで止めようとするが、原子力プラントでは、確実に事故の連鎖を止めることが原理的にできない。安全系の多重化は、事故の確率は減らせるが、大規模な事故を確実に防ぐことは不可能である。
今回の事故は、決して“最悪の事故”だった訳ではなく、“この程度で済んだ”との見方もできる。

[Ⅳ]原発はどうすべきか
福島原発事故は、地震と津波が直接的な原因であるが、それらは原発事故にとっては、事故の単なる入り口にすぎない。原子力においては、危険源つまり危険性の基は、大量の放射性物質の存在であり、それが制御不能になったことが大規模な被害を及ぼす。福島原発では、チェルノブイリ原発の三倍近い放射性物質が撒き散らされる危険性があった。こうした事故は日本中どこの原発でも起こりうる。我々は、こうした原子力の危険と隣り合わせに生きていくことから一日も早く脱却するべきである。
そして、我々はそれを乗り越えていく勇気と知恵と技術を持ち合わせていると思う。


自己紹介文

1949年東京世田谷に生まれ、静岡県富士宮市で育った。

沼津高専機械工学科を卒業し、広島大学船舶工学科に編入学し、1973年卒業した。三井海洋開発㈱にて海洋構造物(海底石油掘削リグなど)
に従事。1989年に東芝原子力プラント設計部にて沸騰水型原子炉格納容器の設計に従事。主として、シビアアクシデントにおける原子炉格納容器の圧力や温度による限界を実験・解析により研究した。
福島原発の設計は担当していないが、同型のプラントの格納容器設計に携わった立場から、3月12日以降、広く一般の方に向けて技術的な解説をしている。